「部屋と断捨離と私」
玄関の外でセミが仰向けの状態で二匹並んで死んでいた。
「ははん、なるほど、これもある種のセミダブルベッドだな」などとアゴ髭をさすりながら空を見上げてみると、雨はすっかり止んでいた。
昨日、本ブログ『龍之介の随想録』の立ち上げも無事に済ませ、
今朝から断捨離をしている。
高音と低音を強調した「ドンシャリ」ではなく、「ダンシャリ」である。
また、シャリを断ち、ひたすらネタだけの寿司を食って、「断シャリ」しているわけでもない。
ギター工房に入院した私の愛器「さくら」(Gibson J-45)がそろそろ退院する予定なのだが、彼女をこの部屋に迎え入れるにあたり、何かこのままじゃいけないような、そんな気がしたのである。
ささやかな歓迎式典も計画しており、(とは言っても名前の入ったケーキを買ってきてあげるだけなのだが、)このままでは、もうとにかくマズいのである。
部屋の大掃除をしなければならない。
手始めに、まずはどうしたらよいか解らなかったので、「断捨離」とインターネッツで森田検索してみると、
断捨離とはもともとはヨガの思想で
断:入ってくるいらない物を断つ。
捨:家にずっとあるいらない物を捨てる。
離:物への執着から離れる。
とある。
今自分に必要なのは「捨」の精神であると奮い立ち、
まずは手始めに溢れかえった衣類を捨てることから始めることにした。
私は腰に手を当てて、勢いよくクローゼットを「ダン!」と開け放ち、プラケースの中に手を突っ込むと、片っ端から展開して、捨ててもよい衣類を探した。
しかし、これは一体どういうことなのだ。
一生着ることはないであろう、ヤングでドレッシーなYシャツや、
あちこち破けてくすみきったジャケット。
汗で黄ばみ、首元は舞台化粧で汚れ、ノビきって、ヨレて、クシャクシャ、袖はクルクル巻き上がり、なんというか、もう、エジプトのミイラが纏っていてもおかしくないと思えるような「いにしえ感」を漂わせ、「あなたはもはや土に帰ったのですね」と手を合わせたくなるような、たった一枚のTシャツも、この胸に抱くと、何か忘れかけていた愛着と思い出が沸々とこの胸によみがえり、、うむ、
だいぶ遠回りしたが、
そう
「捨てられない」
のだ。
いったん、静かに目を閉じた。
ベッドの上に富士山のごとく積みあがった衣服たちが、集団で夜泣きしている。
ひとまずクローゼットは見なかったことにして、
玄関の下駄箱の掃除から始めることに方針転換した。
「お掃除は足もとから」である。
たしか、ドン大西さんあたりが言っていた。と思う。
これぞまさに「龍之介断捨離界のコペルニクス的転回」である。
気持ちを切り替え、意気揚々と下駄箱を覗き込むと、小学生の上履きのように汚れ、煤けきった白のコンバースの向こう側に段ボール箱を見つけた。開けてみると、工具やら何やらの下に赤い物体が見えた。
よく見ると
「発炎筒」である。
これは一体どうしたらよいのだ。
普通にゴミとして捨てた場合、収集車の中で「ダン!!」と大爆発を繰り返すなどして作業員の方が大変危険な目に遭うかもしれないし、巻き起こった爆風により周辺一帯の家屋が吹き飛ばされてしまうかもしれない。
これは困った。
首をねじまげ、筒の側面に書かれた説明書きを読んでみると
「【6】有効期限のすぎたものは練習などでお使いください」
と書いてある。
練習?
「練習」ってなんだ。
発炎筒の練習??
まぁ、それはさておき人様に迷惑を掛けずに、処分できるなら良いではないか、と思い、
「なるべく広い場所が安全だよな」と、
さっそくコンビニの駐車場に向かう準備を始めたのだが、、
ちょっと待て、、、
ジャスタモーメンプリーズ。
読者諸君よ、想像して頂きたい。
深夜のコンビニの駐車場で長髪にヒゲのおっさんが、左手に煌々と焚かれた発炎筒を握りしめた状態で突っ立っていたとして、
これは、
なんというか、
完全に
「過激派」
である。
しかも発炎筒は少なくとも五分以上は燃焼し続けるのだ!
五分以上もだ!
読者諸君よ、もう一度書かせてほしい。
深夜のコンビニの駐車場で長髪にヒゲのおっさんが、シュボワーー!と焚かれた発炎筒を左手に握りしめた状態で、あたり一面に煙を立ち込めながら思いつめた表情で、五分以上もの長い間立ち尽くしていたとして、
これは100%、いや300%の確率でツーホーされる。
仮にツーホーされなくとも、
深夜のコンビニの駐車場でヒップホップダンスの練習をしている若者たちからしたら、
私は確実に危ないやつだ。
映画「シャイニング」のジャック・ニコルソンくらい怖い。
恐ろしい想像を払いのけ、まずは落ち着いて再度、今度は「発炎筒」に関してインターネッツで森田検索してみると、何てことはない。
カー用品店で処分してくれることが解った。
本当に良かった。
危なかった。
こんなにもヒンコーホーセーな男なのに、ツーホーの白い馬されるところだった。
危なかった。
そして今、これを書きながら呑み屋で演歌を聴いている。
つまり本日の私をまとめると、
「ダンシャリしようとしてダン!とクローゼットを開けて、ダンダン辛くなったあと、ダンボールの中から発炎筒を見つけ、ダン!と爆発するのではないかと恐れ、ダンスの練習をしている若者たちにツーホーの白い馬されずに済んで、居酒屋で演歌歌手、段田男さんの歌を聴きたくなっている」
のである。
何一つ「断」も「捨」も「離」も出来なかった。
、、断絶、断絶、今宵断絶。
龍之介