「ママ、スコッチ下さい」
酒場にいると様々な会話が耳に入ってくる。
先日、私の隣の席に座ったカップルがこんな話をしていた。
「『いないいないばあ』の反対の言葉って何か知ってる?」
「えー、、なに?」
「いつもいる、じじい、、」
私は襟足の髪の毛をクルクルと指に巻き付けながら、
「青年よ、実に上手いではないか」と思った。
—
「It is all an illusion」(すべてはまぼろし)
これはデヴィッド・リンチ監督の映画「マルホランド・ドライブ」に登場する魔術師のセリフである。
例えばあなたがアルバイト2年目の居酒屋の店員だとする。
いつものように1人で現れた常連客がカウンターに座り、いつもの調子で
「生、ひとつ下さい」と言う。
あなたは
「生、ひとつですね、ありがとうございます。ナマハイリマース!」
と冷蔵庫から冷えたジョッキを取り出して、サーバーのレバーを倒すだろう。
これは当たり前田のクラッカーである。
いつものことなのである。
しかし、ここで考えてみたいことがある。
その長髪にヒゲは本当に
「生、ひとつ下さい」と言ったのだろうか。
本当だろうか。
私はその昔、
「生ひとつ下さい」と言う場面で
勇気を振り絞って、
「、、、ママ、スコッチ下さい!!」
と言ってみたことがる。
私の目の前に提供されたのは、
一杯の生ビールであった。
「生、ひとつ下さい」に聞こえた音声は
もしかすると
「ママ、スコッチ下さい」
なのかもしれないのだ。
私はそういう気持ちを忘れずに生きていたい。
先入観が覆い隠してしまう何かを探しながら生きていたい。
龍之介
【追録】
その昔、何も知らずに私のめんどくさい実験に巻き込まれた居酒屋の店員さんに心からお詫び致します。
若気の至りとはいえ、大変失礼なことをしました。